富永研究室(大学院)希望者の皆様へ

 ありがたいことで、富永研究室も例年大学院の進学先として、あるいは博士課程修了以降の研究の場としてご志望いただくことが多くなりまして、出願前に色々とご説明する機会があればと思うのですが、なかなか全ての方にお会いするのは難しいためこの場を借りて説明申し上げます。
 研究・教育にあたっての自分の考えの整理も兼ねておりますので、修正・増補を加えるかもしれませんが、一応のところこのような点を心がけております、という参考としていただければ幸いです。

・「社会問題」と「社会運動」は(少なくとも本研究室においては)異なります
 本研究室は、「社会運動」の研究を行います。社会運動って何?というとまた答えが難しくなるのですが、ここでは富永が考える「社会問題」との違いから説明させてください。

 たとえば「ジェンダー平等という社会問題を研究したい」「気候変動という政治課題を探究したい」という場合、それは「社会問題」にあたるという認識でいます。あるいは「子どもの貧困を解決したい」「選択的夫婦別姓を導入したい」という場合、それらにアプローチするなら研究でなく、NPO・NGOや数々の政治過程を通じた実践の方が重要かもしれません。
 社会運動は、市民がこうした問題にアプローチする手法や手続きだと富永は考えています。例えば「ジェンダー平等に市民がアプローチする」という場合、例えば居住している自治体の議員の男女割合を調べるとか、性暴力・性被害に関するデモを行うとか、はたまた駅のトイレに生理用ナプキンを置くとかさまざまな方法が考えられるでしょう。
 よくゼミの中では、問題を解決するための「器」として社会運動があり、器の中身として社会問題がある、という言い方をするのですが、その意味で言えば「中身」に関心があるかどうかは全く問いません(もちろん、私個人として、社会運動が解決しようとするさまざまな問題に関し共感はしていますし、研究室運営においては可能な限り、多様性や公正といった価値に真摯でありたいと考えています)。

・社会運動の実践の有無、政治課題の当事者であるか否かについては問いません
 社会運動を研究する際に、その問題の当事者であるか、あるいはその運動を実践していることは重要か、と問われることがありますが、少なくとも富永の立場からは全く関係ないとお答えしています。

 もちろん、実践を行ってきた人、当事者である人がより関心を持ちやすいということは十分にあるでしょうし、それに基づくモチベーションも重要だと思います。ただ、当事者・実践家の人々と研究者が重視する知識は異なる場合は多々あり、限りある議論や指導の時間の中でその二種類の立場を満足させる知識生産は困難であるのが実情です。
 対象に関する情報や知識も大切ですし、社会問題解決の方途を考えることも重要ですが、あくまで、先行研究と分析枠組、それに基づく対象の記述、考察に関する議論をゼミでは行いたいと考えております。

・博士課程以降に関しては、国際誌論文の投稿・公刊を目標としています
 本研究室は、毎週ジャーナルクラブ形式で社会運動研究論文の紹介と輪読を行います。最新の研究成果を踏まえておくことに加え、国際誌における先行研究渉猟や分析枠組の形成、事例記述の形式を学ぶ、ということを目的としております。
 これは、日本語よりも英語での研究成果発表が重要だというのではなく(私自身も日本語でも研究成果を継続して出しております)、せっかく社会運動のようにトランスナショナルな社会現象を研究しているのですから、その研究成果を日本語の領域に閉じ込めておくのはもったいない、と考えるためです。特に日本を対象とした研究成果は、社会運動研究の国際誌において必ずしも多くありません。しかし、社会運動の参加率がこれほど低く、運動に対して寛容ともいえない日本社会における社会運動はそれなりの特異性・独自性を有するでしょうし、そうした事柄を学術的な知見を持って検討することは、結果として他の社会を研究する上でもより精緻な枠組作りに寄与しうるのではないかと思います。
 また、日本の学術誌に比べ、査読者・編集者の数が多く、より自身の研究関心に近く、より広いオーディエンスを得る可能性のある国際誌で研究業績を刊行することは、とくに若手のうちで自信が持ちづらい時期においては研究者としての有効感を高めることにも繋がると考えています。

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