富永ゼミでは、毎年秋に行われる「立命館大学産業社会学部ゼミ大会」に向けて、二つのグループに分かれて研究を行いました。今回は、そのうち一つのグループによる研究「日本礼讃番組はなぜ増加したのか」を三回に分けて掲載したいと思います。(「日本礼讃番組」第二回 第三回 はこちら)
はじめまして、立命館大学産業社会学部富永ゼミの飯盛奈生子です。私たちは、最近テレビ番組内で外国人が日本や日本人を褒める番組、いわゆる「日本礼讃番組」が増えていることに着目して、その原因を探るべく研究を進めてきました。今回はいくつかの視点から、日本礼讃番組の増加原因について考えていきたいと思います。
いきなりですが、外国人が日本の文化や社会を賞賛している番組を見たことはありますか?
現在、日本に居住する、あるいは観光に訪れる外国人を意識する機会が増加しています。『日本政府観光局(JNTO)』が発表した訪日外国人・出国日本人の統計データによると、外国人観光客が1990年は3,235,860人であったのが、2015年には19,737,409人にまで増加しました。また、2013年にはクールジャパン機構が設立され、さらに2020年の東京オリンピックに向けて訪日外国人観光客数を年間4000万人に増やす計画を政府が進めています。これらの増加や政策等によって、日本文化への関心が高まっていると言われています。
日本という国に対するイメージの形成にあたり、テレビは重要な役割を果たしています(米倉 2015)。実際に一日にテレビに触れる時間を他メディアと比較してみると、下図にしめしてあるテレビに触れる時間で最も多い41%を占めたのは3時間以上見るという回答でした。これは、新聞やSNSへの接触時間が一時間未満であると回答した人が一番多かったことからも、テレビに接する機会の多さが伺えます。インターネットの普及によるテレビ離れが話題となっている今でも、テレビの視聴時間は他メディアにくらべて圧倒的に長いと言えます。
【参考資料】1日にテレビに触れる時間と他メディアの比較
・テレビ 3時間以上41% 2~3時間25% 1~2時間19% 1時間未満9%
・新聞 3時間以上1% 2~3時間2% 1~2時間9% 1時間未満42%
・SNS 3時間以上6% 2~3時間6% 1~2時間10% 1時間未満18%
(NRC Report:『テレビ視聴』調査/2015年7月調査結果、日本リサーチセンター 2015より筆者作成)
ここから、テレビが私たちのイメージを形作る上で依然として重要な役割を担っていることがわかりますが、では、テレビにおける「日本」と国際社会はどう描写されているのでしょうか。私たちは、1980年から2015年までの5年ごとに、各年6月1日~7日の1週間のテレビ番組表を使用し、主要テレビ局(地上波のキー局+NHK)の番組名に「世界・海外・国名(日本、中国など)・和」という文字を含むものを選出しながら、35年間のテレビ番組内容の変遷について調査を行ってみました。各年6月第一週を選んだ理由は、番組改編期にあたらず、特別番組等が見られないためです。そして、それらの番組を「国際的なテーマを扱った番組」とし、その数の変化について分析し、以下、その結果をまとめました。(番組の性質上、ニュース、スポーツ番組、語学番組、ドラマは除く)。
上掲の表の通り、2000年から2015年の間で「国際的な番組」の数は3倍以上に増加していることが分かりました。さらにこれらの番組内容を詳しく追及していくと、興味深いことに、特に増加が目立った番組が「日本礼讃番組」であり、1980年代から2000年代にかけては殆ど見られなかったにもかかわらず、2015年には一週間に5つも見られることが分かります。
そもそも、日本礼讃番組とは、そもそもどのような番組を指すのでしょうか。ここでは早川タダノリによる「日本礼讃番組」の定義を用いたいと思います。早川は日本礼讃番組を「日本を褒める番組」のこととしており、具体的に5つのカテゴリーに分類しています(早川 2016)。
① 立派な日本人(個人)エピソード
② 海外で活躍する日本人(個人)のエピソード
③ 日本の美術工芸品や工芸製品についての海外からの賞賛
④ 日本人は肉体的にも西洋人(白人)に劣っていないことを「証明」
⑤ 日本が持っている世界一の記録集
「日本礼讃番組」の増加は近年注目されるようになったトピックであるため、これらに関する学術的な先行研究は見られません。しかし、テレビ研究や放送研究は数多くあり、その中でもバラエティはテレビという表象空間に閉じない、私たちの日常生活や社会と重なる現象であるという指摘があります(島崎・池田・米倉 2009など)。このため、最新のバラエティ番組である「日本礼讃番組」を研究対象とすることは、現在の日本の情報化社会全体に通じる問題を浮き彫りにすることにつながるのではないか、と私たちは考えました。
日本礼讃番組の内容をさらに詳しく検討するために、今回は具体例として『和風総本家』を挙げたいと思います。和風総本家はテレビ東京系列局他で毎週木曜夜21:00から放送され、「日本っていいな。」を合言葉に、日本のすばらしさを再確認する和のエンターテインメント番組です(『和風総本家』公式ウェブサイトより)。また、2008年より放送開始し、現在も継続した人気を誇っていることからも、日本礼讃番組の先駆け的存在であると言えます。
この番組はいくつかのコーナーに分かれて放映されていますが、その中でも私たちは特に『世界で見つけたMade in Japan』(以下、『Made in Japan』)、『日本という名の惑星』、『○○を支える人々』『日本を支えるスゴイ機械』というコーナーに注目し、その増減を追うことによって『和風総本家』という番組の内容面における変容を分析してみました。
この4つのコーナーについて補足的に説明します。『Made in Japan』は、海外で愛用されている日本の職人による製品についての紹介を行っているコーナーです。この日本版とも言えるのが『日本を支えるスゴイ機械』であり、農業や工業、伝統の技など、日本の職人たちの「右腕」となって活躍する機械を紹介するコーナーです。『日本という名の惑星』は外国(主にアフリカ)のテレビ局クルーが来日し、日本の紹介番組を制作し、その反応を見るという内容であり、これら3つはいずれも他のコーナーにくらべて礼讃的内容が強いと言えます。その一方で、『○○を支える人々』は、特定の地域で見られる様々な製品を作る職人にスポットを当て、製作工程を紹介していることから、特に礼讃的内容ではないと言えるため、上に挙げた3つのコーナーとの対比を見るにあたり適切なのではと考えられます。
『和風総本家』における2011年8月25日(東日本大震災の影響でこの日から放送開始)から2016年12月8日までのコーナー数の推移は以下のようになります。
特に「礼讃」的内容ではない『○○を支える人々』は減少していった一方で、礼讃的要素の強い『日本を支えるスゴイ機械』『Made in Japan』『日本という名の惑星』は増加していることが分かりました。ここで注目したい点として、日本人が日本の機械を礼讃する『日本を支えるスゴイ機械』はほぼ横ばいですが、『Made in Japan』『日本という名の惑星』のほうが増加の割合がやや高くなっています。ここから、一口に日本を褒め称えるといっても、日本人が日本のコンテンツを褒めるようなものでなく、外国人が日本の技術や風習、あるいは活躍する日本人自体を見て称賛しているもの、いわゆるナショナリズムを高める内容が増加しているのではないかと考えられます。このことから、礼讃番組は「量的」にだけではなく「質的」にも変化していると言えるのではないでしょうか。
私たちは、この日本礼讃番組の増加と『和風総本家』にみられる日本を題材にした番組の質的な変化から、次のような仮説を立てました。
日本礼讃番組の増加の背景には、
①番組の送り手であるメディアの特性
②番組の受け手である日本人のナショナル・アイデンティティ
の二つの側面が関わっている、という仮説です。第二回は、私たちが立てた仮説の検証を通して日本礼讃番組を分析していきます。(つづく)
参考文献
・「統計データ(訪日外国人・出国日本人)」『日本政府観光局(JNTO)』
(URL:http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/、2016年12月4日閲覧)
・「NRC Report:『テレビ視聴』調査/2015年7月調査結果」『日本リサーチセンター』
(URL:https://www.jmra-et.or.jp/pdf/document/membership/release/NRC20151111.pdf、日本リサーチセンター,2016年12月4日閲覧)
・米倉律,2015,「テレビ番組における訪日外国人、国内在住外国人の表象-地上波民放の「外国人関連バラエティ番組」を中心に-」『ジャーナリズム&メディア』日本大学法学部新聞学研究所,8号189-205
・「テレビ欄」『朝日新聞』1980,1985,1990,1995,2000,2005,2010,2015年の6月1日6月7日付朝刊
・早川タダノリ,2016,『「日本スゴイ」のディストピア: 戦時下自画自賛の系譜』青弓社
・島崎哲彦・池田正之・米倉律,2009,『放送論』学文社
・「和風総本家」『TVOテレビ大阪』
(URL:http://www.tv-osaka.co.jp/ip4/wafu/、2016年11月29日閲覧)
・「和風総本家/バックナンバー」『テレビ東京』
(URL:http://www.tv-tokyo.co.jp/index/timetable/、2016年11月29日閲覧)