社会運動論者、Britta Baumgartenさんとのこと

 社会運動論者のBritta Baumgarten先生が2018年10月に亡くなられました。2018年のトロントで開催されたISA Conference(世界社会学会)でお会いしたのですが、その数カ月後にご病気で亡くなられたというお話でした。もう一年以上経ち、「いまさら」かもしれませんが、ようやく書く気持ちになったので、少し彼女との思い出を書きたいと思います。(本来英語で書くべきなのでしょうが、気恥ずかしいのと、うまくかけないので、まずは気持ちの整理のために日本語で書きたいと思います)

 私が本格的な国際会議ではじめておこなった報告は2012年、博士課程一年の冬のことで、スペイン・ビルバオで行われたISA RC47/48のジョイントカンファレンスでおこなった修論に関する内容のものでした。
 よく知られている社会運動論の研究と、G8サミット抗議行動に関する事例研究をおさえるのがやっとという感じの私の報告は、敢えていうなら「周りがプレステ2なのに私だけファミコン」という感じでした。ビルバオまで来ちゃって話すようなものでもなかったかなあ、もっとちゃんとした研究ができるようになってから来ればよかったかも、と思いながらコーヒーブレイクの時間ぼんやりしていたら、Brittaさんが私のもとにやってきて、「私、あなたの研究とても好きですよ」と励ましてくださいました。
 「こんなどうでもいい院生にまでこういうことを言ってくださるなんて、親切な方なんだなあ」と思ったのですが、その後に出た彼女のご編著(Britta, B., Daphi, P. and Ullrich, P. ed., 2014, Conceptualizing Culture in Social Movement Research, Parglave Macmillan )を拝読すると、確かに問題関心として共通したところがあるといいますか、私が研究していたのは、彼女が理論的に明らかにしたかった現象の一部ではたしかにあったのだと思うようになりました。

 その頃はまだ周りに国際会議で報告される人が少なく、国際会議で報告したとしても査読論文にするのは相当長い道のりになります。周りの人は、専門の近い先生の科研費プロジェクトに入ったり、ブックチャプターを書いているのに、私が書くのはプロシーディングスばかりで、こんなことチンタラやってていいのか……と思うことも幾度となくありました。その一方で、国際会議で出会う彼女のような人たちとの出会いに支えられながら、いつも地球のどこかで光っている緑のGmailのチャットランプを支えに、細々と研究を続けていました。
 PDになり就職する中で、その後も何度か参加する国際会議がかぶったため、彼女からはそのたびにアドバイスをもらいました。最後にお会いした2018年7月のInternational Sociological Associationの会議の際には、2017年に公刊された私のペーパーの感想をいただき、これから投稿するとしたらどのようなジャーナルがいいか、対象・流行の移り変わりが比較的激しい(そしてその対象の新しさに、理論の側も部分的に左右されやすいところがある)グローバルな社会運動の研究、社会運動と文化の研究の中で、どう自分なりの軸を見つけていくのがいいか……という話をしていたのだと記憶しています。
 コーヒーを飲みながら、彼女は、あるメモを描いてくれました。それは彼女がお勧めするジャーナルのリストで、ずっと手元に残りながら、いろいろなことにぐずぐずしていて、長い間活用する機会をもたなかったものでもあります。

 なぜ、いまこういうことを書こうと思ったかというと、彼女がくれた情報を参考に、ようやく論文を投稿し終えたためです。あのメモをもらってから、もう1年半も経ってしまいました。本当は掲載されてからにしようかと思いましたが、それを待っていると何周忌になるかわからないので……、これをもって、一応、彼女への報告にかえたいと思います。

Britta Baumgarten, 2017, “The children of the Carnation Revolution? Connections between Portugal’s anti-austerity movement and the revolutionary period 1974/1975” Social Movement Studies 16: 51-63.

Britta, B., Daphi, P. and Ullrich, P. ed., 2014, Conceptualizing Culture in Social Movement Research, Paraglave Macmillan

https://protestinstitut.eu/britta-baumgarten-1975-2018/



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