Social Movement Studiesに論文掲載(質的調査を国際誌論文として書くと……)

雑誌『Social Movement Studies』に論文”Social Reproduction and the Limitations of Protest Camps: Openness and Exclusion of Social Movements in Japan”(http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14742837.2017.1279960)が掲載されました。オンライン版と冊子版でパブリッシュ時期が違うのですが、おそらく冊子版は2017年の3号になるのだと思います。内容は、博士論文を元にした著書の第三章と第五章に当たる部分に、欧州で2012年以降にOccupy Movementの流れを汲んで興隆した理論を組み入れています(この点は査読者の方のアドバイスですが……)。

社会運動論の専門誌は日本になく、何をしたら「社会運動論の研究者」と名乗っていいんだろうなーと感じていましたが、かつ、国際会議でもインパクトファクターのきちんとついた雑誌(この言い方もかなり問題含みであることはわかっていますが)に査読論文がまだなかったので肩身が狭いばかりでしたが、これでなんとか、という感じです。もちろん一回きりで終わってしまってはダメで、継続的に書かなくてはなりませんが。
あとは、気づいたことのメモです。社会学の質的調査で、さらにプレステージの高い雑誌に英語論文を書かれている日本語ネイティブの方はすでに若手でも沢山いらっしゃるかと思いますが、指導教官や、投稿経験のある同僚からのアドバイスなしに外国語論文を書くのは大変で抵抗があるという方もいるかもとも感じます。既視の内容でも、何らかのお役に立てたらと思います。

– 国際誌だからといって国内誌より掲載までの期間が長いわけではない
2015年の10月末提出で2016年の12月掲載確定だったので、比較的有名な国内誌よりも査読期間が短いということは十分ありえると思います。この雑誌は刊行頻度が高めなので、そのせいもあるのかもしれませんが。査読は2016年3月(4月に修正して返却)、2016年7月(8月に修正して返却)、2016年10月(最終、11月に微修正して返却)で2017年1月に掲載決定でした。

– 質的調査をベースとした日本研究だからといって難易度が高いわけではない
よく日本の研究をしていると「背景について伝わるのだろうか」「文脈も含めて査読者に説明しなければならないのが難しい」という不安が頭をよぎりますが、査読を重ねていく中で「もっと説明してくれ」とか「なんでここは日本固有なの?」というやりとりがあったのがありがたかったです。むしろ、自分の「日本の社会運動」に対する考え方や理論の捉え方にバイアスがあることもわかって、そこもかなりすっきりしました。
ただ、私の場合は事例が結構特殊で、「日本のサミット・プロテスト(オルターグローバリゼーション運動)」という、欧州でメジャーな事例の日本版を取り扱っているから査読者に伝わりやすい要素が比較的多く、査読がスムーズだったのかもしれません。例えば事例が同じ日本の社会運動であったとしても、住民運動など、その地域固有の文脈がかなり強いタイプの事例だと難しいのかもしれないなとも感じます。
今回は完全にインタビューデータの分析を使いましたが、特にインタビュー箇所の引用やその前後の書きぶりは自分になるべく近いフィールドを調査した外国語論文が役に立ちました。

– 海外に滞在しながら書くと楽?
この論文は、2016年の7-8月にスイスで滞在した時に書いたもので、そこで書いたフルペーパーを8月のEuropean Sociological Associationの運動部会で報告しました。元ネタこそ2015年の博論ですが、短期集中で書いて、一回きりの学会で報告しただけというのも良かったのかもしれません。余談ですが、実は2016年夏のオランダ滞在は、この論文のエディターとなってくれていた方に依頼してお願いしたもので、そういう意味では論文を出すだけでも新しい縁が出来ていいものだなと感じました。一回国際会議で話したきりなかなか会えなかった友人も連絡してくれて、そういうことは国内誌でもあると思うのですが嬉しかったことの一つです。

– かかるお金
社会学の場合、日本の雑誌は学会員でなければ投稿できなかったり、別途投稿料や抜き刷り購入費がかかりますが(たとえば『ソシオロゴス』は学会員でなくても投稿できますが、投稿料がかかります)、少なくともこの雑誌の場合それがないのが良かったです。英文校正費はかかりますが、第一回目が50000円前後、第二回・第三回は修正箇所のみで14000円前後だったと記憶しています。ただ、結局ネイティブチェックに出しても査読者にダメ出しされるということもあるので(最後まで「a」と「the」の区別がよくわかっていなくて、そこが最後まで査読で問われることに……)、友達に直してもらうくらいでもよかったのかもしれません。勤務校には国際誌投稿支援制度があったのでそれを利用しました。

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