2026年度より、富永京子を研究代表者として科研費・民間財団の支援のもとで行っている研究プロジェクトの定期的な情報公開をいたします(現在は仮ページ)。現在のプロジェクトは、以下の二つになります。
1)「空き家を利活用した都市空間の自治ーースクウォット・DIY研究から」(科研費・基盤研究B、国際共同研究加速、鹿島学術振興財団の支援による)
研究代表者:富永京子(立命館大学准教授・ウィーン大学特別研究員)
研究分担者:
大学院生(RAとして協力):楊雨双(立命館大学大学院)・髙瀬詩穂美(東京大学大学院)・土中萌(大阪大学大学院)
実務家:大須賀嵩幸(リトーアーキテクツ・一級建築士)
日本のみならず多くの都市において、空き家・空き施設・空き店舗を利活用した都市空間の自主管理・運営は実践的にも学術的にも重要視され、地理学・社会学・人類学を中心とした社会科学分野における大きな課題となっている。こうした空き家を市民が管理・維持する行為は、日本では「まちづくり・まちおこし」の一環として、都市計画や都市政策の分野で研究されつつある。一方欧州ではスクウォット(Squat)として知られており、社会運動論におけるスクウォット研究で主に研究されている。また、市民が自主修繕や自主管理を行うことから DIY(Do-It-Yourself)・アーバニズム研究の文脈で研究することもある(Creasap, K. 2022, Making A Scene, Temple UP; Gordon, C D. 2018, The Help-Yourself City, Oxford UP)。
本研究は、日本における空き家・空き店舗を利活用した都市空間の自主管理・運営に注目し、それらをまちづくりや地域活性化等の観点からではなく、ジェントリフィケーションへの対抗や、困難を抱えるマイノリティを包摂する場といった社会運動として捉える。欧州を中心とした先行研究は、DIYによる空き家改築の成果として、比較的低廉な住空間を市民が共同管理することによる都市の高級化(ジェントリフィケーション)に対する対抗としての意義であったり、経済的に困難を抱える人々を包摂する可能性であったり、土着の知識や生活環境に即した資源管理ノウハウの伝達といった機能を示唆してきた。そこで本課題では、従来日本で検討されてきた「まちづくり・まちおこし」やコミュニティ形成としての空き家を利活用した公共空間の自主管理・運営を、スクウォット・DIY研究の文脈から検討している。それにより、日本社会において公共管理の自主管理・運営がどのような政治的・社会的意義を有し、またどういった特異性・独自性を有するかを、行政学・障害学・地理学・観光学・建築学の研究者らとともに明らかにする。
2)「戦後日本の政治参加における主体性・自発性と価値相対主義のジレンマ」
研究代表者:富永京子(立命館大学准教授・ウィーン大学特別研究員)
共同研究者:
大学院生(RAとして協力予定):瀨川美和(立命館大学大学院)・石神和也(東京大学大学院)
本研究は、戦後日本における自主性・自発性の尊重に基づく価値相対主義の広がりと、現代日本の社会意識変容とされる右傾化・保守化の関係性を制度・意識面から解くものである。社会学の先行研究は、戦後日本史をリベラル的な価値観の弱体化、保守・排外的価値観の強化という「右傾化」の歴史として描いてきた(伊藤昌亮,2022『ネット右派とは何か』青弓社; 北田暁大,2015『嗤う日本のナショナリズム』NHK出版)。しかし、NHK放送文化研究所「日本人の調査」(1973年-)、統計数理研究所「国民性調査」などの各種大規模社会調査は、1970-80年代の政治参加の傾向として「自主性・自発性」が重要視され、「自分の頭で考える」形での政治的意思決定が強まった点を示している。
1970年代以降の日本は、自主性・自発性・自己決定を尊重するリベラルな価値観と、労働組合による戦後最高の賃上げや革新自治体の成立といった一定の制度的達成が見られた時期でもあった。この点を取れば、日本社会はリベラルな価値観を支持し、革新勢力を後押ししたとも解釈できる。しかし自主性・自発性という価値観の台頭は価値相対主義へと転じ「自己の選択のもとに」保守的な勢力を支持する人々の台頭や右派的な勢力を強化した可能性や、革新的な組織を保守的な方向へ漸近させる原動力となった可能性もあるのではないか。
本研究はこのような問題意識から、労働組合・人権市民団体(女性団体)・革新政党・革新自治体という、戦後日本の価値転換期である1970-80年代において制度と意識の両面で影響力を有したエージェントを、経済史(財政史)・政治史・社会史・文化史の観点から分析する。革新的な主体が、現代的な価値観から見れば保守的とされる制度や意識の形成に寄与することは十分あり得るだろう。本研究は「右傾化・保守化」の社会とされた現代日本を、革新的な価値観を持つ主体が制度形成・社会意識の担い手になった歴史として再度捉え直す。