インターネット番組「ポリタスTV」の出演休止/降板について

 2021年4月から隔週で、津田大介さんが務めるインターネット報道番組「ポリタスTV」に隔週で出演したのですが、8月をもって降板する(ウェブ番組でこういう言い方が正しいのかどうかわかりませんが)ことになりました。番組では「休止」とありますが、レギュラーとしては復帰の可能性が薄いので主観的な表現として「降板」とさせてください。

 津田さんとは、私がSNS上で氏のある言葉を批判したことをきっかけに「ポリタスTV」のゲストとしてお呼びいただき、その後レギュラーのコメンテーターとして出演しないかというお声がけをいただきました。私の異議申し立てに対しても常に聞く耳を持ち、たとえばジェンダーやマイノリティに関する姿勢についても、ご自身が今まで蓄積した見方や考え方を躊躇なく手放し、今風に言えば「アップデート」する姿勢を本当に尊敬しています。

 降板の理由は番組内容とは関係なく、インターネット番組が抱えてしまう、視聴者との「密接さ」の側にあります。それも大半の視聴者の方とは全く関係なく、ごく一部の「密接過ぎる」人々への対応に疲れてしまったということに尽きると思います。

 インターネット番組は、リアルタイムチャットなどを通じて視聴者と出演者が密接にコミュニケートできる空間で、番組外では出演者にSNSを通じてアクセスできる場合も少なくなりません。視聴者の方は基本的には好意的な方が多く、SNSをフォローして頂くこと、コメントやメッセージを頂くこともよくありました。
 ただ、そういう、面識のない人からの悪気のない好意や忌憚のない意見に疲れてしまったところもありました。少し長くなりますが、特に気になったものは二つです。

 一つは「意見」について。これはインターネット報道番組が特に特定の政治的立場に属している視聴者の方々に好まれているという特性と大きく関わるものですが、例えば、私と共演した方が「うなぎを食べに行って……」という話をされたときに「うなぎ食べるんだ……」というコメントをされたり、ペットボトルのお水を飲んでいると「ペットボトルのお水はちょっと」と意見をいただく、ある識者の方の意見を紹介すると「あの人に同意するなんてがっかり」といったものです。
 SNS上で番組自体に意見が寄せられることも少なくなく、例えばゲストの男女比を半々にしているというならそれを誰にでもわかるところに明示して欲しいというもの、このゲストを出演させないでほしいというものなど様々でした。
 これらのコメントは、制作側や出演者側の意識を喚起させる上で非常に重要な機能を持っていると思います。ご指摘は私の政治的立場からいっても概ね同意できるもので、間違っているとは思いません。私個人に対するものに関しては、長い時間をかけて直していけたらと考えています。

 ただ、そこまで瞬時に大勢の人からさまざまな角度での清廉潔白性、首尾一貫性を要求されることに疲れてしまったというのは、隠しようもない事実です。そういう清廉潔白性や首尾一貫性を保持できればできるほど「信頼できる人」「信頼できる番組」として見なされていくようなところもありますが、「この人が言っているから信頼できる」「この人が言っているなら信頼できない」という「言う人」ありきの認知が強化される空間にいることは、あまり個人的に歓迎できない事態でした。実際、多くの人は私の本や論文というよりは、もっぱら私のパーソナリティーに関心を持っていたように思いますし、事実そうした応援のメッセージも多く頂きました。
 情報の送り手を肯定し、信頼してくれる人がいることは、ジャーナリズムや社会運動なら大きな力を持つのでしょうが、私としては、私自身より私の研究に関心を持って頂きたかったという気持ちが強いです。そういったことが他のメディアではできていたように感じたのですが、このようなメディアだとキャラクターを先行して消費される傾向が強いのか、自分の志すものとは異なっていたというのも降板の大きな理由です。

 二つは「好意」「共感」についてです。少し上で書いたことと重複してしまうのですが、一部の視聴者の方は、私の意見や考えに対してだけ好意を持つのではなく、楽しそうに津田さんとおしゃべりするところを好ましく感じて下さっているようでした。それは嬉しいことなのですが、一方でやや無邪気に押し付けられる共感、好意を重荷に感じたこともありました。
 多分そういう人からは、インターネット番組での対話や、そこで語られる様々な趣味を心から楽しんでいる存在として見られているのだと思います。そして、本心から好感を持っていただいたり、応援してくださっているのだとも感じます。ただ、本当にそれが好きかどうか、楽しんでるかもわからないのに他人をそう見てしまうことは、私自身は怖いなと思いますし、自分がどっと疲れを感じるのは、そういった形である種のキャラクターとして悪意なく消費され、面識のない人から「自分はこの人のことをよく知っている」という思い込みとともに言葉をかけられたときでした。

 好意を抱いていただけることは嬉しいですし、面識のない人からポジティブに思われるのは誰しもが経験できるわけではないという意味で、幸運なことだとも思います。ただ、人間のある面を単純化して形成した像を本人に投影してしまう、その宛先が自分であることに、やはり疲れてしまいました。

 私自身は、大学教員としては研究・教育以外の仕事をしているほうだと思います。それは社会運動、社会貢献としてというよりは、楽しいし刺激になる、という自分自身の理由が大きいです。 

 ただ、もしそうした中で「こういう仕事をしたい」という社会的な意識があるとしたら、政治的な立場が明確に決まっている人や、そのコンテンツをすでに信頼して受容している人々に向けて言葉を作り出したいというよりは、もっと何気なく、政治や社会運動にあまり関心を持たずに生活している人が、ラジオやテレビで流れる私の発言や、病院とか美容室にある私の雑誌記事や新聞記事を読んで、自分が抱えている悩みや問題について、これって自分のせいじゃないんだとか、もう少し自分も困ってるって言ってもいいのかなと思える、そういう言葉のほうを作りたいと思っています。

 ポリタスTV自体は、その時々に話題になっている事柄について、専門家の方が長い時間をかけ、十分に言葉を尽くした議論・説明を聞くことのできる素晴らしい番組ですし、私も有料会員として登録しています。津田さんは本当に長年活躍されているアクティヴィストの方で、社会運動を研究する者として尊敬する方のお一人であることに変わりありません。
 私自身は離れてしまいますが、他のゲストの方のように専門知識が必要な場面があり、お声がけ頂くことがあれば出演することもあるでしょうし、今後ともポリタスTVを応援することに変わりはありません。このコンテンツを好きになる人が増えるようであれば、関わらせていただいた一人としてとてもうれしく思います。また、素晴らしい機会をくださった津田大介さんとスタッフの皆様に、改めて心からのお礼を申し上げます。

関連記事