あっという間の2022年度でした。個人で論文や研究発表を頑張るというよりは、スタッフや院生、研究員の方々との連携を重視した年でした。そもそも社会科学系の、しかも質問紙調査や実験、海外でのフィールドワークなどを行うわけではない質的研究者なのに、なんでそれほどチームでやることを頑張ろうと思ったかというと、自分ですべてやることはもう難しいだろうということと、今後の生活の仕方を考えると「誰かに頼る」ことを前提として生活や仕事を捉え直さなくてはいけないだろうと思ったからです。
そういうわけなので、昨年度はとにかく人に頼った一年で、頼りすぎて人と自分の境目が曖昧になるくらいでした。
なぜ人に頼る必要があったかというと、私的なことではありますが、出産して子との同居がはじまったこともあり、なかなか前と同じようにはいかない生活になったためです。そういうわけですから、自分のような分野の研究者としては珍しく、秘書さんやスタッフの方々、院生さんに論文のまとめやデータ入力、調査補助など、お手伝いをいただくことも多くありました。だから、もちろん自分名義の仕事はあるのですが、そもそもどこからどこまでが自分でやったことだ、と言いづらいのが実情です。
「人にやってもらう」といっても、やってもらうのも実は難しいことです。こうした事態になるのを見越して、研究費だけは余裕を持って確保しようと決めたのでその点はなんとかなりましたが、それまで共同研究経験はあっても、人を本格的に雇って仕事をしたことのない人間が、いざ「手伝ってください」と声をかけることへの躊躇といったら。
とくに研究室に出入りしている院生や研究員の皆さんに依頼のメールを送っているときは「こんなことまでお願いしてしまって、わざわざ私を頼ってきてくれたのに、こんなことまでこちらが頼んでしまって良いのか」という弱みを見せる怖さのようなものと「しかし研究ってそもそも分業によってできるものなんじゃないか」という開き直りの間に立たされるような気持ちでいました。
「〜だと思われないか」と先回りして他人の気持ちを慮って、人を頼れなくなる、声を上げられなくなる、だから声を上げていいんだということをもう講演や記事で何百回も言ってきたけれど、自分が誰かの手を頼ろうとするとやはり怖い。そうした中で、院生や研究員の方々にご快諾いただいたこと、「勉強になる」と言っていただいたこと(もちろんその言葉に甘えて「搾取」するかたちにならないよう気をつけなければいけませんが)に、どれほど救われる思いだったかというのは今もうまく言い表せません。
研究室に院生や研究員の方々がいらして、本格的に研究室の運営をするようになってまだ数年、また子の保護者となってケアをする立場になって1年わずかの自分ですから、自分の進んでいる方向が正しいかどうか、まだまだ全くわかりませんが、こうした経験をしたからこそ分かることもきっとあると思います。
改めて、みなさまに様々な形で支えていただいていることに感謝いたします。
本年度もどうかよろしくお願いいたします。
【2022年度の研究成果】
– 論文
1) 富永京子,2022,「『書くこと』による読者共同体の生成メカニズム――若者雑誌『ビックリハウス』の投稿を事例として」『ソシオロジ』67(1): 99-115.(査読あり)
2) 富永京子,2022,「『からかい』から見る女性運動と社会運動、若者文化の70年代――雑誌『ビックリハウス』におけるウーマンリブ/フェミニズム言説を通じて」 日高勝之編『1970年代文化論』青弓社,30-56頁.(書籍分担執筆)
3) 富永京子,2022,「現代のアクティビズムにおいて『代表』は機能しているのか」『民主主義に未来はあるのか?』法政大学出版局,271-302.(書籍分担執筆)
– 学会報告・学術系招待講演
Kyoko Tominaga, 2022, “The Process of Forming Activist Identity under Media Coverage: the Perfect Standard, Right Type of Activism, and Gendered Experience”, Mobilization Conference, San Diego.
Kyoko Tominaga, 2022, “Who Meets the Perfect Standard of a ‘Real’ Feminist?: Writings by Feminist Activists in Japan” AFPP Conference, Online.
富永京子,2022,「消費社会の論理がコミュニケーションに浸透した」とはどういうことか,日本メディア学会2022年春季大会.
学会コメンテーター(数理社会学会,日本政治学会)
シンポジウムパネリスト(日本NPO学会)
– 寄稿・論考
『現代思想』『学士会年報』『吉本隆明――廃墟からの出立』『法研』『自由に生きるための知性とは何か』ほか
講演(労働組合,企業,消費者団体,青年会議所,海外大学,高校など)
– 資金獲得(代表分のみ)
1) トヨタ財団2022年度研究助成プログラム「空き家・空き店舗の活用による都市コミュニティ形成――若年自営業者の創造的労働と協同の場として」2022-2023年度
2) 一般財団法人研友社2022年度調査研究「安全性を持つ移動手段としての鉄道に関する研究――ジェンダーの視点から」2022年度
3) 公益財団法人小笠原敏晶記念財団 調査・研究助成「『サブカル』はいかにして『アート』になったのか――1970・80 年代若者下位文化従事者のライフヒストリー研究」2022-2023年度
4) 全労済協会 2022年度公募委託調査研究「都市に居住する若年層による職住近接型労働者協同組合の研究」2022-2023年度
5) 第一生命財団研究助成「空き家・空き店舗の活用による都市コミュニティ形成――若年自営業者の創造的労働と協同の場として」2023年度
– メディア出演・寄稿
朝日新聞、北海道新聞、TBSラジオ、インターネット番組「ポリタスTV」(8月まで)、『すばる』での連載・レギュラー出演に加え、NHKや東京新聞、毎日新聞、朝日新聞beなどでお仕事しました。個人的には女性誌・女性向け媒体の仕事が面白く、複数回担当した『Precious』でのお仕事はいずれも大変印象的ですし、『VERY』『CHANTO』『Yoi』『CybozuDays』『毎日新聞』での出産・子育て関連のお話は、また以前とは異なるやり方で他者とつながる可能性を感じた仕事でもありました。
– 各種委員
日本社会学会 理事(ダイバーシティ推進ワーキンググループ)
外務省 Discuss Japan Journal 編集委員
連合総研「理解・共感・参加を推進する労働組合の未来」に関する調査研究 研究会委員