もう一ヶ月以上前ですが、北海道新聞の「一強の行方」という企画でご取材頂きました。安倍首相が東京都議選の街頭演説で、「安倍辞めろ」コールに対して「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と発言したことに関してどう捉えるか、というお題に対してお答えしました。
記事は以下に引用させてもらっていますが、少し興味深いなと感じたのは、「こんな人たち」という発言によって、社会運動に参加する人々が、特定の利益や関心を持つ人々による「集団」として認識されている点です。首相が社会運動に参与している人々をこれほどまでに認識しているのは、脱原発運動、特定秘密保護法案への反対運動、安保法制への抗議行動、といった一連の社会運動があったためとも言えるのではないでしょうか。そうした行動が引き出した「こんな人たち」という発言から、今まで映し出されてきたものとは異なる政権の性格を引き出したのなら、デモンストレーションは意味があったと言えるのではないか、という話をしています。
もう一つ、こうした答え方をしようと思った理由は、社会運動にかつて参加されていた学生さんとの対話です。先日行われた大学内の講演会で、質疑応答の際に学生さんが「結局自分たちの行動は自己満足だったんじゃないか?」という発言をされていた際に、何かきちんとお答えしたいと思ってこの機会にお答えすることにしました。実際、デモや街宣にどんな効果があるのか分かりにくいという方は多いと思うのですが、問題を周知するという効用のほかに、継続して行うことで、それまで見えてこなかった敵手のすがたを引き出しうるんじゃないかという話をしています。
<1強の行方>2 社会運動 首相には脅威 立命館大・富永京子准教授
――安倍晋三首相が東京都議選の街頭演説で言った言葉が注目されました。
「首相は街頭演説で、聴衆から『安倍辞めろ』コールが起こると、『こんな人たちに負けるわけにはいかない』と叫びました。こうした抗議デモなどの社会運動に参加するのは関心の強い一部の人かもしれませんが、運動に参加しなくても首相に不満を抱いている人はたくさんいます。首相の発言は、そうした『普通の市民』も敵として線引きしてしまいました。首相の排外的で強権的な側面が、国会における法案の強行採決よりも分かりやすい形で表れたと感じます」
――首相が感情的になったのはなぜでしょうか。
「社会運動に参加する人々を集団として認識し、脅威に感じたからこそ『人たち』という表現をしたのでしょう。『負けない』という言葉も面白いですね。『攻撃されている自分はかわいそう』という意識があるのかもしれません」
――確かに最近は安倍首相を批判する運動が目立ってきました。
「『アベ政治を許さない』など強い表現を使う活動も見られます。2015年の安全保障関連法への抗議デモは若者グループ『SEALDs(シールズ)』が中心となって盛り上がり、今年も『共謀罪』法への抗議活動が広がりました。ここ数年、安倍首相は常に社会運動にさらされてきたと言えます。『こんな人たち』発言は、あの場所にいた人の抗議活動だけではなく、一連の社会運動が引き出したと言えます」
――敵と味方を分断する雰囲気が社会に広がっているのでしょうか。
「元々あったヘイトスピーチや愛国主義的な運動は、安倍政権の発足後に目立つようになってきました。最近は生活保護受給者や社会運動の参加者に対する批判なども強まっています。為政者の振る舞いが社会に影響を与えている面と、時代の空気が為政者にそのような言動を要請している面の、両方があると思います」
――社会運動は今後の政治に影響を与えるでしょうか。
「自民党が大敗した都議選では、首相の『こんな人たち』発言を聞いて投票先を決めた人もいたでしょう。社会運動は有権者に判断材料を与え、選択の幅を広げる役割を果たしました。安倍政権の支持者は、代わりとなる受け皿がないことを理由とする『消極的支持』が多いと言われます。首相の社会運動との向き合い方や対応は、消極的支持者をはじめとした有権者の選択に影響を与える可能性があります」(聞き手・東京報道 津田祐慈)
<略歴> とみなが・きょうこ 1986年札幌市生まれ。東京大大学院人文社会系研究科博士課程修了。専門は社会学。近著に「社会運動と若者―日常と出来事を往還する政治」