「そもそも何も失ってないから、取り戻す必要なんてないんだよ」(2023年度研究・社会的活動まとめ)


 新著の出版に向けての作業や新連載の準備などを行っていたら新年度も一ヶ月半をすぎていました。例年研究費の報告書などの関連で研究成果のまとめをやっているので、こちらにも書いておきます。

[刊行論文(査読付)]
1) Kyoko Tominaga, 2023, “Protest tourism as gendered experience: constraints, feelings and gender roles of female activists” Frontiers in Sustainable Tourism 2  
2) 富永京子,2023,「1970-80年代の雑誌を通じた『性の解放』と『個の解放』ーー『ビックリハウス』における女性の表象・キャリア言説を通じて」『社会学評論』72(2)
3) 富永京子,2024,「調査研究と協働/共同の『狭間』、活動家と研究者の『狭間』――マスメディアで発信する社会運動研究者の抱える『原罪』と『贖罪』の過程」『文化人類学』88(4)
4) 坂本治也・富永京子・金澤悠介,2023「過去の社会運動に対する否定的評価は政治参加にどう影響するのか」『ノンプロフィット・レビュー』23(1+2)

[図書(分担執筆)]
1) 富永京子,2023「『職』『住』をシェアする」祐成保志・武田俊輔編『コミュニティの社会学』有斐閣.

[学会報告・招待講演]
1) Kyoko Tominaga, 2023, Prefiguration performed by ‘pretend’ squatting:The case of the self-build community engaged by youth activists in Japan, AFPP 2023 Conference, Manchester.
2) Kyoko Tominaga, 2023, Activist Tourism as a Process of Prefiguration Development: The Case of Tourism at the World Conferences of Women, 1975-1985, Mobilization-SDSU Conference, San Diego
3) Kyoko Tominaga, 2023, Housing, Working, and Networking with Neighborhoods: Constructing Autonomy and Reconstructing Community by Ex-Activists Youth, APSA ASIA Workshop(招待講演)
– ほか、トヨタ財団、子どもアドボカシー学会研究会、戦争社会学研究会、同時代史学会関西研究会、立教大学アメリカ研究所「ポピュラーカルチャーと政治」など

[資金調達](研究代表者分のみ)
1) 日本学術振興会 基盤研究C「社会的権利要求への冷笑・揶揄・攻撃をめぐる戦後若者史」2022-2024年度(継続)
2) トヨタ財団2022年度研究助成プログラム「空き家・空き店舗の活用による都市コミュニティ形成――若年自営業者の創造的労働と協同の場として」2022-2023年度(継続)
3) 公益財団法人小笠原敏晶記念財団 調査・研究助成「『サブカル』はいかにして『アート』になったのか――1970・80 年代若者下位文化従事者のライフヒストリー研究」2022-2023年度
4) 全労済協会 2022年度公募委託調査研究「都市に居住する若年層による職住近接型労働者協同組合の研究」2022-2023年度
5) 第一生命財団研究助成「空き家・空き店舗の活用による都市コミュニティ形成――若年自営業者の創造的労働と協同の場として」2023年度
6) 戸田育英財団研究助成「郊外における若者移住者の空き家再利用による都市コミュニティ形成に関する研究」2023年度
7) ひと・健康・未来財団研究助成「若者たちを孤立と不安定から救う方途としての職住同一型協同組合に関するアクション・リサーチ」2023年度
8) 住友電工グループ社会貢献基金「空き家を活用した都市空間形成による住民間のセーフティネット構築」2023-2024年度
9) 一般財団法人研友社2023年度調査研究「社会的影響力を持つ公共都市空間としての鉄道駅」2023年度

[その他](社会的活動)
・委員等
– 日本社会学会 理事
デサイロ アカデミックインキュベータープログラム 審査員
連合総研「労働組合の未来」研究会委員
– 外務省 Discuss Japan Journal 編集委員

・連載・寄稿・出演等
– 朝日新聞連載「モジモジ系時評
– 北海道新聞連載「考えるピント」
– TBSラジオ「まとめて土曜日」
– 雑誌『Precious』コラム(不定期)
– ほか、プルデンシャル生命ウェブサイトにてロングインタビュー「『若い頃が最強』は幻想」、集英社ウェブサイト「yoi 」、NHK エデュケーショナル「大人のためのアイラブみー」、朝日新聞インタビュー(「耕論」「Re:Ron」ほか)、CLASSY., ベネッセ、CGTN Network、ポリタスTV、共同通信、読売新聞、Abemaなど

 さまざまなメディアで申し上げておりました通り、2021年度末に出産いたしまして、出産と育児を通じて失った(と思い込んでいた)こと、今までできていたことができなくなるのが怖かったものですから、私にとって、失った(と思い込んでいた)何かを「取り戻す」のが何よりの目標でした。それが、少なくとも仕事の面でできた年ではあったと思います。論文刊行も資金調達も、あるいは新しいプロジェクトの準備も、自分の中で院生の頃を含めもっとも高い水準でできた年度ではありました。
 
 ただ、そこまで「失った」自分を前提として、「取り戻そう」と躍起にならなくてもよかったんじゃないかとも今は思います。私が出産しようが休職しようがこれまでの経験はずっと私の中にあって、そもそも簡単に失われるものではなくて、何かの機会に応じてなにかの経験が顔を出す、そういうものだということも、本年度に行ったさまざまな講演や執筆を通じてわかったことでした。久しぶりの国際学会や招待講演で再会した人々や、さまざまな仕事の機会にお声がけくださったみなさんが、それを教えて下さったように思います。

 昔、指導教員の先生に「院生の頃と違って、時間もないのになぜそんなに研究成果が出せるのですか」と他の先輩と一緒に聞いたことがあり、「経験というものは意外とバカにならないからね」といった返事をいただいたのですが、その経験のバカにならなさに改めて気づいたようなところがある一年でした。
 現在、自分なりのペースで研究成果も刊行でき、スタッフや院生と共に新しい研究プロジェクトを立ち上げられています。曲がりなりにも10年以上の経験があるわけで、前よりずっと関心も広く深くなったと思うし、調査や研究をしてて楽しいと思うことや、ひらめきも増えてきたと思います。それは間違いなく、院生の頃の自分が持ち得なかったものです。
 心のどこかで、若いうちに持ち得た資源が失われること、年を重ねるにつれてさまざまな面での負荷が増えるということに怯えていた私にとって、自分の経験を信じられるということが、何より嬉しいことでした。

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