ウィーン大学ウェブサイトに記事――もしきみがDJ、もとい、客員研究員になろうと思ったら

 9月の研究滞在につきまして、ウィーン大学日本学研究所のウェブサイトで紹介していただきました。非常に短い研究員としての滞在でしたが、とても充実していました。記事には滋賀県立大学の武田俊輔先生もいらっしゃいますが、他にも短期・長期で来られている日本の大学の先生方もおられて、普段はお会い出来ない先生方と交流できた点でもとても勉強になりました。

Websiteの記事:Goodbye to visiting Professors Tominaga and Takeda (ウィーン大学日本学研究所ウェブサイトより)
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 余暇らしい余暇はとっておらず、現地でのレジャーといえばウィーン・フィルを聴いて、オペラを観るくらいだったのですが、そこで一つ思い出した随筆がありました。アーティストの曽我部恵一さんがある音楽雑誌に書かれていた「もしきみがDJになろうと思ったら」という文章です。曽我部恵一さんが、朝起きてから夜にクラブでプレイするまでの間何をするべきか、ということを、DJになろうと思う「きみ」に向けて書いた文章です。レコードを水洗いしてきれいに乾かしておくべきだ、イメージトレーニングをやりすぎるほどやっておくべきだ、とびきりおいしいコーヒーを飲みながら、夜のイベントを待つべきだ……というものです。

 私がこの情景に惹かれたのは、別にDJになりたかったからでも音楽が好きだったからでもありません。その「準備」の風景に強く惹かれたのです。DJになろうとする「きみ」にとっての「本番」は、夜、クラブで行うDJプレイと、それに合わせて踊るお客さんと味わう至上の時間なのでしょう。しかし一方で、それを準備する時間もまた豊かさと楽しみに満ちているはずです。私は恐らく、準備や設営が「本番」に従属する過程でなく、それ自体ひどく喜びに満ちている過程であることを活き活きと描いていたから、この文章が好きだったのだと思います。さらに、私の研究に(無理やり)絡めて言うなら、この文章は曽我部恵一さんなりの「バックステージ論」なのだと解釈しています。クラブでプレイするというフロントステージがなければ、このバックステージもありえないわけです。

 話を少しもとに戻しますが、海外で地域研究をしているわけでもないのに、「毎年、客員研究員で海外に行っている」と言うと、ちょっと不思議な顔をされます。もとは、静かで友人のあまり居ない場所で論文を書きたいという理由だけで始めたことでしたが、今では結構重要な役割を占めているような気がします。この滞在は私にとってやっぱりちょっと結構特別な「出来事(非日常)」という意味ではフロントステージですが、同時に関西で過ごす日常、バックステージにも大きな影響を及ぼしています。こうした滞在を予期して一年を過ごすからこそ、そこで過ごすにあたって十分な資金調達をしたり、海外で読んでもらえるような論文を書いたり、受け入れて下さった相手側をいつでももてなせるような体制を整える必要があるためです。日々の生活をバックステージというと、余暇に従属しているように聞こえるかもしれませんが、現にこうした、ある種必要に迫られての論文執筆や資金調達は、私の研究生活をずいぶん豊かなものにしてくれている気がします。

 何度も「客員」をやっていていつも思うことは、親切に迎えていただけるので、何とかしてその後もその場に貢献できるような研究者であり続けなければいけないなということです。私もちょっとずつ客員研究員の方をお迎えできるようになってますが、成果を出して、資金を集めて、もっともっと多くの方をお呼びして恩返ししたいと考えてます。これからも資質がないなりに細々とですが、遠くにいる、同じ関心をもつ人に成果を届けたいと思います。

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