富永ゼミグループ研究「日本人の政治的忌避感~『#音楽に政治を持ち込むな』批判から見る~」 1/3

 3月7日から12日にかけて、富永ゼミ三回生によるグループ研究を掲載しています。本日からは、「日本人の政治的忌避感~『#音楽に政治を持ち込むな』批判から見る~」です。
(もう一つのプロジェクト、「日本礼讃番組はなぜ増加したのか」はこちら(英語版はこちら)から!)


 はじめまして。立命館大学産業社会学部富永ゼミ所属3回生の加藤里彩です。私達は「日本人の政治的忌避感~「#音楽に政治を持ち込むな」批判から見る~」というテーマで研究を進めて参りました。今回から3回に分けて、調査した研究内容について報告していきます。

 このテーマで研究を始めようと思ったきっかけの一つとして、2016年に開催されたフジロックフェスティバルに自由と民主主義のための学生緊急行動「SEALDs」の奥田愛基氏が出演することに対しての批判、その批判に対してミュージシャンを含む著名人が反論し大きな話題になったことに興味を持ったためです。私自身音楽が好きでよくライブや音楽フェスに参加していて、ミュージシャンが政治的発言をすることに特に抵抗はありません。仮にミュージシャンの発言が自分の意見や考え方と異なっていたとしても、一つの考え方として受け止め、真っ向から拒否することはありません。そしてミュージシャンの発言を受けて今まで知らなかった問題やニュースに興味を持ち、詳しく知ろうと調べることも多くあります。
 とくに震災以降、ミュージシャンがライブや音楽フェスの場で政治的な発言をする機会は少なくなく、例えば2016年の中津川ソーラー武道館のOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND(以下OAU)のステージにおいてBRAHMAN/OAUのTOSHI-LOWは、太陽光発電でそのフェスが開催されていることに関連して原発問題に対する処理への違和感や、「大人」として政治的な主張を行っていくことの重要性を主張しています(BARKS 2016)。私は中津川ソーラー武道館へ参加して、TOSHI-LOWの発言を目の前で聞いていました。この発言の後周囲を見渡すと真剣な表情でうなずく人、歓声を上げる人、満足した表情をする人がいて、彼らの表情を見ていると、その場でTOSHI-LOWの発言に拒否感を表す人はいないように感じられました。一方で、同じくファンであったり、普段からそのアーティストの曲を聴いている人であっても、例えばネット上ではこういったミュージシャンの発言に対して激しい拒否、嫌悪感を示す人が多く存在します。そこで、ミュージシャンの政治的発言を受け入れる人々と受け入れない人々では何が異なるのか興味を持ち、このような研究をはじめました。

 2016年夏のフジロックで奥田氏の出演に対して多くの批判や論争が起こり、twitter上で「#音楽に政治を持ち込むな」といったハッシュタグが作られました。更には新聞やテレビでも取り上げられるなど社会現象となったことは、記憶に新しいところです(『朝日新聞』2016年6月23日朝刊、『東京新聞』2016年6月25日朝刊、『THE HUFFINGTON POST』2016年6月6日)。
こうした論争の中でも、とくに私は、何故多くの人がミュージシャンをはじめとする著名人の政治的発言に対して抵抗感、拒否感を示したのか疑問に思いました。
 また、政治的発言をするミュージシャンを含む著名人への批判が起こる一方で、同じく著名人である学者や専門家、政治家が政治的な発言をすることに対して人々は抵抗感や忌避感を募らせることはありません。政治家は政治的発言をすること、学者や専門家もまた間接的に政策決定などに関与することが仕事の一環であり、発言をしない政治家は政治家ではないわけですから、一見すると当たり前のことのように感じられます。ただ、それならアーティストも私たちも同様に政治の当事者なのだから、誰が政治的な発言をしてもいいはずです。実際に、海外では有名なアーティストが公の場で政治的な主張をする様子も度々報道されています(『朝日新聞』2016年10月29日刊)
 そこで私たちは、「#音楽に政治を持ち込むな」論争が生じた背景として、日本人の政治に対する消極的なイメージが存在しており、政治に関わることに対する何らかの抵抗感、忌避感といった感情があるのではないかと考えました。

 このレポートでは、とくに政治的な専門的知識を持たないようなミュージシャン、アーティストをはじめとする著名人の政治的発言に対する忌避感や抵抗感が生じる理由について考察することで、私たちが持つ「政治的な忌避感」について考察します。(第二回に続く)

参考文献

小峰健二・藤崎昭子,2016「『音楽に政治を持ち込むな』フェスめぐり論争」『朝日新聞』2016年6月23日朝刊:33.
沢田千秋,2016「シールズ出演巡り フジロックに波紋『問題意識 共有の場』」『東京新聞』2016年6月25日朝刊:1.
平山亜理,2016「反トランプ、音楽界席巻 曲使用にアーティスト次々抗議」『朝日新聞』2016年10月29日.
【速レポ】<中津川フェス>OAU、「最近穏やかな感じでやってきたけどさ(笑)、やっぱり怒っているんだよね」『BARKS』 (URL:https://www.barks.jp/news/?id=1000130702 最終閲覧2016年12月22日)
松本人志「政治的発言、俺はやっていく」フジロック「政治利用」批判巡りコメント, 『THE HUFFIGNTON POST』(URL:http://www.huffingtonpost.jp/2016/06/26/matsumoto-hitoshi-fuji-rock_n_10680606.html 最終閲覧2017年1月13日)

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