富永ゼミグループ研究「日本礼讃番組はなぜ増加したのか」3/3

 3月7日から12日まで、富永ゼミ3回生によるグループ研究を紹介しています。「日本礼讃番組はなぜ増加したのか」第1回第2回に続き、最終回となる第3回を掲載します。(英語版はこちらから)


 立命館大学産業社会学部メディア社会専攻3回生の古賀叶子です。立命館大学産業社会学部富永ゼミで「日本礼讃番組」の増加について研究しています。ここまで第1回・第2回と、日本礼讃番組はなぜ増加したのかという問いのもと、メディア的側面とナショナルアイデンティティの側面があるとして話を進めてきました。その上で、日本礼讃番組の需要がある要因として、日本人のナショナルアイデンティティの中に日本人としての誇りの再認識欲があるのではないかという仮説が浮上しました。第3回では、その再認識欲がいかなるものなのかを実態を明らかにしたいと思います。

 なぜ友人や同僚からではなくテレビを通じて、自らの誇りを再認識する必要があるのでしょうか。博報堂生活総研が行った生活定点の調査で「外国人の友達はいますか?」という質問に対して「はい」と答えた人は、多くても約3割にとどまっています(博報堂 2016)。つまり、大多数の日本人は外国人と接触する機会が少ないために、他国民からどのように見られているかを身近で知ることができないため、テレビを通して知ろうとしている一面があるのかもしれません。
 実際に視聴者の意見を見ても、こうした「再認識」に対する肯定的な声が見られます。私たちは、日本を取り上げている番組のひとつ『YOUは何しに日本へ?』(テレビ東京)を例に挙げ、「Y!テレビ」の「みんなの感想」より、この番組を見る理由が書かれたコメントを検討しました。ここでは、とりわけ代表的なコメントを3つ挙げたいと思います。1つ目は「いつも面白く見てます。日本人なのに新たな日本を発見することもできるし、いい番組です」というもので、2つ目は「日本に興味がある人でも、興味を持つものがバラバラ 来日の理由も様々でとても面白く勉強になる」という意見、3つ目は「外国人から見た日本の良さ、日本人も気付いていない日本の良さに気付かせてくれます。また、日本人に自信を与えます」というものでした。作り手が日本を礼讃する意図で製作しているか否かにかかわらず、これらのコメントに共通するのは「発見」「勉強になる」といった、外国人を通じた「再認識」という過程と、それが「日本の良さ」「面白さ」「いい番組」という評価と「自信」という日本の肯定に繋がっている点がうかがえます。

 さらに、同番組を異文化表象の観点から調査した米倉の研究は、2014年5~8月の放送(計15回)における成田空港でのインタビューコーナーに登場した外国人(180人)の出身国籍のデータを示し、実際に日本に入国している外国人の出身国籍のデータ(法務省入国管理局統計、2014年5~8月)と比較しています。米倉の分析結果から、実際入国者として一番多いアジア国籍の外国人(6割以上)が、番組では2割以下しか出演しておらず、反対に入国者として1.5割に満たない欧州国籍の外国人とアメリカ国籍の外国人が、それぞれ約4割、約3割出演していることがわかります(米倉 2015)。このような、日本礼讃番組における典型的な外国人像の表象は、何を表しているのでしょうか。
 私たちは、岩淵功一の論じた「セルフオリエンタリズム」という概念から、こうした現象を読み解きました。西洋の国々が日本に与えた異質性や特殊性である「オリエンタリズム」を、日本人が自ら西洋人のイメージに合わせて演じることを岩淵は「セルフオリエンタリズム」として論じています(岩淵 2011)。日本政府や日本人は、西洋のオリエンタリズムによる日本のイメージが、日本の現在の文化的状況とは異なっていたとしても、そのイメージの「伝統文化」を「日本」として表象し、世界に紹介してきました。日本礼賛番組において西洋人を「日本を褒める他者」として位置づける試みもまた、こうしたセルフオリエンタリズムの一環であり、日本を西洋に対置することで「再認識」を進めようとする試みと言えるのではないでしょうか。欧米人(西洋人)は日本とは大きく異なる文化を持つため、再認識のための第三者として理に適っているし、「日本よりも進んでいる」とされる欧米人の視点からの評価の方が再認識欲を満たしやすいと考えられます。

 ここで、第1回から第3回までの内容をまとめたいと思います。日本礼讃番組の増加原因は、メディアの特性とナショナルアイデンティティの特性の二つの側面がありました。まずメディアの特性について、「日本礼讃番組」はテレビ局にとって予算を抑えつつ安定的に放送できる魅力的なコンテンツであり、テレビ東京の成功を先駆けに、テレビ朝日・TBSがこれに追随したために増加したと考えることができます。第二にナショナルアイデンティティについて、「自分たちは優秀である」と思っているものの、世界的に見て誇りを持てていないという日本人の奇妙なナショナルアイデンティティに対して、日本礼讃番組が提供する日本の文化や職人芸は、その具体的な回答を提供するのに好適であったと考えられるでしょう。
 日本人の誇りの再認識欲というニーズに対して、その「再認識」を具体的に可能にするためには、単に文化や伝統を紹介するだけでなく、「欧米人」という第三者の目線が重要な役割を担っています。実際に会うことは少ないが、文化が大きく異なる欧米人からの日本人へのまなざしは日本人のナショナリズムを高揚させ、私たちの日常では認知しにくい「誇り」を発見しほめてくれる視点として常に都合のよいものだったのではないでしょうか。
 日本礼讃番組の研究は、ここで終わります。今回の研究では、日本礼讃番組の増加の原因は追究できましたが、増加による影響までは言及できなかったので、さらなる研究を重ねたいと考えています。

参考文献:
岩渕功一,2011,『トランスナショナル・ジャパン』岩波書店
「外国人の友人はいますか?」『博報堂生活総研生活定点』
(URL:http://seikatsusokenjp/teiten/answer/983.html 2016年12月4日閲覧).
「Y!テレビ みんなの感想」
(URL:https://tv.yahoo.co.jp/s/review/ 2016年12月4日閲覧)

2 Comments

  1. 君と
    君と 03/13/2017 at 1:32 AM . Reply

    富永ゼミの皆様の研究、大変興味深く拝見させていただきました。「日本礼讃番組」の質や量がどのように変化してきたのか、また「日本礼讃番組」はどのような要請の元で放送されるようになったのかを丁寧に検証した、大変すばらしい研究だと思います。
    しかし、メディア研究はわたしの専門外ではありますが、専門外の人間として2点質問、というよりこの研究にこれが含まれていたらもっと良かったなと思うことを、僭越ながらコメントさせていただきます。
    第一に、富永ゼミの皆様(あるいは富永先生)が「日本礼讃番組」が増えることが問題である、と考える理由、言い換えれば、どのような問題意識の元で「日本礼讃番組」にフォーカスしようと考えたのか(フォーカスするに値すると考える根拠は何か)を知りたかったです。「最近、日本を褒める番組が増えていてキモいよね」というのは、左派系の言論人の間ではある種の「常識(あるいは通説)」のようになってはいますが、「みんなが言ってるから」とか「今ホットな話題だから」ということ以上の、「日本礼讃番組」の増加が「無視できない現象」であるとする理由が説明されていればもっと良かったな、と思います。
    第二に、Nationalistic TV Programmeが放映されているのはおそらく日本だけではなく、代表的なもので言えばアメリカのFOX TVのように、「日本礼讃番組」以上にNationalisticな色彩の強い番組(や、それを放映するテレビ局)があると思います。日本の「日本礼讃番組」が、FOX TV(や、そのほか「愛国」あるいは「右派」メディア)と似たような文脈から生まれてきたのか、あるいはまったく違ったものなのか、Nationalistic TV Programmeの中でどのように位置づけられるのかが述べられていればもっと良かったな、と思います。
    長いコメントを最後まで読んでいただいてありがとうございます。皆様の研究をこれからも陰ながらに応援しています。

  2. 非公開でお願いします。
    非公開でお願いします。 03/27/2017 at 1:09 AM . Reply

    ご担当者様

    こんにちは。興味深く拝見させていただきました。
    また、研究内容を英語で発信しているのは素晴らしいことだと思います。

    ところで、本文中で「岩淵 」となっている箇所は、「岩渕」の誤字だと思います。
    ここは修正する必要があると思います。
    今後のご活躍をお祈りしております。

    失礼いたします。

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