富永ゼミグループ研究「日本礼讃番組はなぜ増加したのか」2/3

 3月7日から12日にかけて、富永ゼミ三回生によるグループ研究を掲載しています。本日は「日本礼讃番組はなぜ増加したのか」第二回目です。(一部、図の画像サイズがWebsiteの設定と合っておらず、見にくくなっています。現在、調整中です。申し訳ありません。)


 はじめまして!立命館大学産業社会学部メディア社会専攻三回生の奥一貴です。今回は、第1回に引き続き、私たち富永ゼミの「日本礼讃番組班」が研究・発表した内容について、報告させていただきたいと思います。

 第1回では日本礼讃番組の増加と、『和風総本家』にみられる日本を題材にした番組の質的な変化を明らかにしてきましたが、私たちは日本礼讃番組がなぜ増加しているのかという研究を進めるにあたって、増加の背景には、番組の送り手であるメディアの特性と、番組の受け手である日本人のナショナル・アイデンティティの二つの側面があるのではないかと仮説を立てました。
 私が担当する第2回では、送り手であるメディアの特性から日本礼讃番組の増加を分析します。第一に、番組の制作環境について、広告費と制作費の観点から見ていきたいと思います。特定サービス産業統計調査によると、テレビ番組の広告費は、他の新聞・雑誌・ラジオ等のメディアに比べて非常に高いと言えますが、2007年頃から2009年頃にかけて2000億円以上落ち込んでいることがわかります。

(特定サービス産業動態統計調査を元に作成)

 また、在京キー局の決算情報によると、広告費の減少にともなって、番組の制作費も2007年頃から2009年頃にかけて大きく落ち込んでいることがわかります。

(各局がネットで公表している決算情報を元に作成)

 ここで、とりわけ注目したいのが「テレビ東京」です。テレビ東京の制作費は、他のテレビ局の制作費の半分以下と非常に少ない予算で番組制作を行っていることが分かります。また一方で、テレビ東京は最も多く日本礼讃番組を提供している代表的なテレビ局でもあります。2015年6月に放送されていた番組のうち、本稿で定義される「日本礼讃番組」は、以下の通りです。

 2015年6月には、『和風総本家』(テレビ大阪(テレビ東京系列))『世界ナゼそこに?日本人』(テレビ東京)『Youは何しに日本へ』(テレビ東京)『所さんのニッポンの出番!』(TBS)『世界が驚いたニッポン!スゴーイデスネ!!視察団』(テレビ朝日)の5本が放送されていましたが、実にそのうちの3本が、テレビ東京とその系列局の制作した番組でした。
 では、なぜテレビ東京はこれほど日本に関する番組を放映しているのでしょうか。テレビ東京開局50周年を記念して行われた社員座談会「これからのテレビ東京について語る」を参考に考えていきたいと思います。この座談会の参加者は、プロデューサーの伊藤隆行氏、コンテンツビジネス担当の長友香織氏、編成の大庭竹修氏の三名でした。大庭竹氏は、日本礼讃番組に挙げさせていただいた『和風総本家』を担当しています。

  長友氏「財力の面もあり、とにかく知恵を使わないといけないことから、長年オリジナリティや独創性のある企画がいろいろ出てきたのでしょうね。」
  大庭竹氏「気持ちが良いのは、他局が予算5,000万円かけて作った番組に、1,000万円で勝った時ですよね。」
 (テレビ東京ホームページ「これからのテレビ東京について語る」より抜粋)

 これらの発言から、テレビ東京には、予算をかけるよりも、知恵で勝負する気風があり、また、その結果として予算が少なくとも支持が得られる番組の作成が奨励されると言えるのではないでしょうか。もうひとつ注目すべき点として、上で挙げたどの番組も比較的長期に渡って放送されています。こうした成功を踏まえて、TBSやテレビ朝日が、こうしたテレビ東京の「成功事例」に追随する形になったと考えられます。
 私たちは、このことから、予算を抑えながら安定的に放送できる日本礼讃番組は、制作費が減少している今日において、テレビ局にとって魅力的なコンテンツになっているのではないかと考えました。

 しかし、上記は番組の送り手であるメディア側の一要因に過ぎません。私たちは、安定的に放送できる、つまりは視聴率がとれる背景には、番組の受け手である日本人の側にも、何か日本礼讃番組を求める要因があるのではないかと考えました。そこで、次は日本人のナショナル・アイデンティティから、日本礼讃番組増加の理由について考えていきたいと思います。
 ナショナル・アイデンティティとは、「自分の属する国に対する態度や意識」(中村 2016)のことです。日本礼讃番組が生まれたきっかけには、経済不況やクールジャパン政策などが指摘されています(岩渕 2007)。しかし、それらは、今なお放送され続ける明確な根拠にはならないと私たちは考えました。そこで私たちは、日本人のナショナル・アイデンティティを把握するために、NHK放送文化研究所の調査とWorld Value Surveyを参考に、近年の日本人におけるナショナル・アイデンティティの変容を検討しました。
 NHK放送文化研究所が2013年に実施した調査によると、「日本人は、ほかの国民に比べて極めて優れた素質を持っている」と考える人が、1998年から2013年にかけて約20%上昇したのに対し、「今でも日本は外国から見習うべきことが多い」と考える人が、約10%減少したことが分かります。

 しかし一方で、2010年に実施された世界価値観調査(World Value Survey)によると、自国に誇りを感じる人の割合は約65%と、日本は調査対象となった58カ国の中でも非常に低い方とされています。例えば、同じ調査対象となった先進国でもアメリカは91.4%、中国は89.6%と、日本よりははるかに「誇りを感じる」人々の割合が多いことが明らかになっています(池田 2016)。
 このことから、日本人のナショナル・アイデンティティにおける「矛盾」が見て取れます。つまり、日本人は年々「自分たちはすごい」という自負を高めている一方で、何が本当に「すごい」のか、誇りといえるのか、分かっていないと言えるのではないでしょうか。

 このような状況を読み解くにあたり、「プロジェクトX」の分析を行った伊藤守は、日本の技術者の活躍を視聴することを通じて自らもまた日本人であることを再認するプロセスが働いているのではないかと論じています(伊藤 2002)。つまり、日本礼讃番組は、優れた技術者や伝統的な文化といった日本人の「誇り」を提供することで、日本人の「誇り」の再認識欲を満たしていると言えるのではないでしょうか。次回では、この「再認識欲」がどのような実態を持っているのかについて、さらに明らかにしていきます。

参考文献:
池田謙一、2016、『日本人の考え方 世界の人の考え方: 世界価値観調査から見えるもの』勁草書房
伊藤守、2002、『メディア文化の権力作用』せりか書房
岩渕功一、2007、『文化の対話力〜ブランドナショナリズムとソフトパワーを超えて』日本経済新聞出版社
中村晃、2016、「ナショナルアイデンティティと自己愛―愛国心とナショナリズムの差異に注目して―」『国府台経済研究第26巻第1号』第3章p.63-80
「テレビ欄」『朝日新聞』1980,1985,1990,1995,2000,2005,2010,2015年の6月1日から6月7日付朝刊

参考web:
「2015年度第1四半期 IR決算説明資料」『日本テレビホールディングス株式会社』
(URL:http://www.ntvhd.co.jp/ir/library/presentation/booklet/pdf/2015_1q.pdf、
2015年7月30日)
「2015年度第2四半期 IR決算説明資料」『日本テレビホールディングス株式会社』
(URL: http://www.ntvhd.co.jp/ir/library/presentation/booklet/pdf/2015_2q.pdf、
2015年11月6日)
「2015年度第3四半期 IR決算説明資料」『日本テレビホールディングス株式会社』
(URL: http://www.ntvhd.co.jp/ir/library/presentation/booklet/pdf/2015_3q.pdf、
2016年2月8日)
「2015年度 IR決算説明資料」『日本テレビホールディングス株式会社』
(URL:http://www.ntvhd.co.jp/ir/library/presentation/booklet/pdf/2015_4q.pdf、
2016年5月17日)
「2016年3月期 決算資料」『TBSホールディングス』
(URL: http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1354265、2016年12月4日閲覧)
「2016 年3月 期 決算説明会資料」『フジ・メディア・ホールディングス』(URL: http://contents.xj-storage.jp/xcontents/46760/68fd980d/ded3/45fd/89e7/e3182b04157f/20160524105636883s.pdf、2016年12月4日閲覧)
「2016年3月期 決算説明会」『テレビ朝日ホールディングス』
(URL: http://www.tv-asahihd.co.jp/contents/ir_setex/data/2016/20160516.pdf、2016年12月4日閲覧)
「2016年3月期(2015年度) 第1四半期決算補足資料」『テレビ東京ホールディングス』
(URL: http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1273876、2016年12月4日閲覧)
「2016年3月期(2015年度) 第2四半期決算補足資料」『テレビ東京ホールディングス』
(URL: http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1297961、2016年12月4日閲覧)
「2016年3月期(2015年度) 第3四半期決算補足資料」『テレビ東京ホールディングス』
(URL: http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1323651、2016年12月4日閲覧)
「2016年3月期(2015年度) 通期決算補足資料」『テレビ東京ホールディングス』
(URL: http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1359692、2016年12月4日閲覧)
「広告業」『経済産業省』
(URL:http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result/result_1.html、
2016年12月4日閲覧)
「第9回「日本人の意識」調査(2013) 結果の概要」『NHK放送文化研究所』
(URL: https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/yoron/social/pdf/140520.pdf、2016年12月4日閲覧)
「テレビ東京開局50周年社員座談会『これからのテレビ東京を語る』」『テレビ東京』(URL:http://www.tv-tokyo.co.jp/csr/round_table_talk/、2016年12月1日閲覧)

One Comment

  1. 許
    03/15/2017 at 12:12 AM . Reply

    大変興味深い研究だと思います。ありがとうございました。ちょっと不明な点を質問させていただきたいと思います。
    NHK放送文化研究所が調べた「日本人は、ほかの国民に比べて極めて優れた素質を持っている」に対して、2013年は67.5%です。この割合を、世界価値観調査が調べた「自国に誇りを感じる日本人」の65%と照らすれば、矛盾しているところか、ほぼ合っているではないかと気がします。
    しかし、本研究で前者のデータで「日本人は年々「自分たちはすごい」という自負を高めている」と解釈して、後者のデータで「何が本当に「すごい」のか、誇りといえるのか、分かっていない」と解釈しました。どうしてこのように対立的な解釈をしているでしょうか。もっと詳しい説明していただければ幸いです。
    また、三回で外国人友たちを持っている日本人は三割ぐらいで、大多数の日本人は外国人との接触がないと書いていますが。七割は大多数と言えるかどうか、ちょっと微妙ではないかと気がします。
    さらに、あくまで私見に過ぎませんが、現代社会で知り合いではなく、メディアに通じて世界を知ることが、すごく普通なことと思います。この普遍現象は必ず日本礼賛番組と直結しているかどうか、あるいは自国に対する「もっと知りたい」という需求を満足できる手段が他にもあるかどうか、これからの研究課題になるかもしれません。

Post Comment